ある強欲な男が夢をみた。天使と悪魔が現れ、おまえに天国と地獄を見せてやろうと言った。最初に天使が天国に連れて行った。そこでは大きなテーブルに豪華な食事が沢山並べられて、幸せそうな人々がそれを取り囲み今にも宴が始まろうとしていた。
次に悪魔が地獄へ誘った。男はあまり乗り気ではなかったが、めったにない機会なんだしと、ついて行った。酷いところだと想像していたにもかかわらず、驚いたことにそこには大きなテーブルがあり、やはり豪華なご馳走がふんだんに用意され、人々が集まり宴が始まらんとしていた。男は、これでは天国も地獄も違いなんてないじゃないかと抗議し、本当にまったく同じなのかと悪魔に念のため聞いた。悪魔は“そうだ、箸の長さまでまったく同じだ”と請け合った。
目覚めた男は考えた。天国も地獄も同じならこの世で何をやっても罰はない、要するに捕まらなければいいのだ。そして男はあらゆる悪業をおこなった。そして老い死んだ。
当然のごとく地獄へ送られた男は腹ペコで、御馳走で溢れんばかりのテーブルを他の人々と取り囲んで座っていた。はげしい空腹でよだれを垂らしながら殺気だった招待客に箸が配られて宴が始まった。
箸の長さは1メートル以上もあって、誰も料理をつまんでも口に入れることはできない。手掴みで食べようとする者は地獄の番人たちによって殴られ放り出された。地獄の招待客たちはさらわれてなるものかと、他人の挟んだ食べ物をはじき落とし、唾を吐きかけ、あちらこちらで殴り合いまで始まった。
男は御馳走を前に急激につのる空腹に胃酸で内蔵を焼きながら悶えた。だまされたと思ってあの時の悪魔を呪い、ののしった。そこへ悪魔が現れ言った。
“おれは嘘はついてない、天国もまったくここと同じなのだ、箸の長さまでな!”
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